1.1 AIにおける数学の役割
人工知能(AI)の技術は、自然言語処理、画像認識、レコメンドシステム、自動運転など、私たちの生活や産業のさまざまな場面で応用されています。その中心にあるのが「機械学習」や「深層学習」といったアルゴリズムです。そして、これらのアルゴリズムの設計や理解、改良に欠かせないのが「数学」です。
たとえば、ニューラルネットワークの学習に用いられる勾配降下法は微分の概念に基づいています。機械学習モデルの入力や重みはベクトルや行列として表され、線形代数が不可欠です。また、モデルの評価や改善には、確率や統計の知識が重要になります。
つまり、AIを「使える」だけでなく「創れる」エンジニアを目指すには、背後にある数学の理解が不可欠です。本書では、AI技術の根底にある数学を体系的に学ぶことを目的としています。
1.2 数学的リテラシーの重要性
AI技術は今後も進化を続け、より複雑で洗練されたアルゴリズムが登場することは間違いありません。そうした変化に柔軟に対応し、単なるツールのユーザーではなく、アルゴリズムの設計者・改良者として活躍するためには、数学的リテラシーが強力な武器になります。
「難しい数式は苦手だ」と感じる方もいるかもしれませんが、心配はいりません。本書では、抽象的な数式をただ並べるのではなく、直感的な理解と具体的な事例を重視しています。読者が「なぜその数学が必要なのか」を常に意識できるように、AIにおける実践とのつながりを丁寧に解説していきます。