本書の目的と対象読者
さて、あなたは今、Google Cloud Platform(GCP)という巨大なクラウドの世界への扉を開こうとしていますね。この教科書は、まさにそんなあなたのためのものです。
本書の目的は、GCPの基本的な概念から、実際にアプリケーションを構築・運用するために必要な知識、さらには高度なデータ分析や機械学習の基盤まで、GCPを「使いこなせる」エンジニアになるためのロードマップを提供することです。単にサービスの機能を知るだけでなく、それぞれのサービスがどのような課題を解決し、どのように連携して動くのかを理解し、あなた自身のアイデアをクラウド上で形にできるようになることを目指します。
この教科書の対象読者は、以下のような方々です。
- GCPに興味を持ち、これから本格的に学び始めたいエンジニア志望の方
- オンプレミス環境での開発経験があり、クラウドへの移行を考えているエンジニアの方
- すでにGCPを触り始めているものの、体系的に知識を整理し、さらに深く理解したいエンジニアの方
- GCPの認定資格(Associate Cloud Engineer, Professional Cloud Architectなど)取得を目指している方
プログラミングの基礎知識や、Linuxコマンドの基本的な操作経験があると、よりスムーズに学習を進められますが、GCPの概念から丁寧に解説していくので、安心して読み進めてください。
GCPとは何か?
「GCPってよく聞くけど、結局何?」そう思っているかもしれませんね。
GCP、正式名称はGoogle Cloud Platform。これは、Googleが提供するクラウドコンピューティングサービスの総称です。私たちが普段使っているGoogle検索やYouTube、Gmailといったサービスも、実はこのGoogle Cloudの技術基盤の上で動いています。その強力なインフラと技術を、私たち開発者が自由に使えるようにしたものがGCPなんです。
では、「クラウドコンピューティング」とは何でしょうか?簡単に言うと、これまで自分の会社や家に置いていた「サーバー」や「ストレージ」などのITインフラを、インターネット経由で、必要な時に必要なだけ利用できる仕組みのことです。
例えば、新しいWebサイトを作るとしましょう。これまでは、自分でサーバーを買い、設置し、ネットワークを設定し、OSをインストール…と、たくさんの手間と時間、初期費用がかかりました。しかし、クラウドを使えば、これらの作業の多くが数クリックやコマンド一つで完了します。しかも、使った分だけ料金を払う「従量課金制」なので、無駄なコストを抑えられます。
GCPの強みと特徴はたくさんありますが、特に以下の点が挙げられます。
- 堅牢なインフラ: Googleが長年培ってきたグローバルなネットワークとデータセンター技術に基づいています。信頼性も非常に高いです。
- 最先端の技術: 機械学習やAI、ビッグデータ分析といった分野で、Googleが持つ最先端の技術がサービスとして提供されています。例えば、大量のデータを高速に分析できるBigQueryや、AIモデルを簡単に構築できるVertex AIなどがあります。
- フルマネージドサービス: 多くのサービスが「フルマネージド」で提供されています。これは、サーバーのOSのパッチ当てやハードウェアの管理など、面倒な運用保守をGoogleが代わりに行ってくれるということです。私たちは、アプリケーション開発やビジネスロジックに集中できます。
- 豊富なサービス群: 仮想マシン、コンテナ、サーバーレス、データベース、ストレージ、ネットワーク、セキュリティ、開発ツール、データ分析、AI/MLなど、幅広いサービスが提供されており、あらゆるニーズに対応できます。
- Kubernetes発祥の地: コンテナオーケストレーションのデファクトスタンダードとなったKubernetesは、Google社内で開発されました。そのノウハウが凝縮されたGoogle Kubernetes Engine (GKE) は非常に強力です。
GCPは、まさに現代のITインフラを支える強力なツールボックスであり、これを使いこなすことは、エンジニアとしての市場価値を高める上で非常に重要になってきています。
GCPを学ぶ上で必要な前提知識
「GCPを学ぶ前に、何を勉強しておけばいいんだろう?」と不安に思うかもしれませんね。大丈夫です、基本的な知識があれば、GCPの世界に飛び込むことができます。
具体的には、以下の基本的な知識があると、学習がスムーズに進みます。
- ITインフラの基礎知識:
- ネットワーク: IPアドレス、DNS、ポート番号、ファイアウォールなどの基本的な概念を理解していると、GCPのネットワークサービス(VPCなど)の理解が早まります。
- サーバー: 仮想マシン(VM)、OS(Linuxがおすすめです)の基本的な概念、プロセス、メモリなどの知識があると、Compute Engineなどの理解に役立ちます。
- ストレージ: ファイルシステム、ブロックストレージ、オブジェクトストレージの概念を知っていると、Cloud StorageやCompute Engineのディスクの理解が進みます。
- Linuxコマンドの基礎:
cd
やls
、mkdir
、ssh
など、基本的なコマンドを操作できると、GCPのCloud ShellやCompute EngineのVM上で作業する際に非常に便利です。
- プログラミングの基礎:
- Python、Go、Node.js、Javaなどのいずれかのプログラミング言語で、簡単なプログラムを書けるレベルであれば十分です。GCPのサービスを操作するためのSDKやAPIを使う際に役立ちます。
- データベースの基礎(できれば):
- リレーショナルデータベース(RDB)やSQLの基本的な概念を知っていると、Cloud SQLなどのデータベースサービスを扱う際に有利です。
これらの知識が完璧でなくても心配いりません。本書では、必要に応じてこれらの基礎知識にも触れながら進めていきます。最も大切なのは、「GCPを使って何かを創りたい」というあなたの好奇心と意欲です。さあ、一緒にGCPの旅を始めましょう!